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ナノファイバーの応用分野

現在、ナノファイバーの適用が考えられているのは、以下の4分野であり、多くの大学および政府研究機関において、研究成果が報告されております(図6)。

ナノファイバーの応用分野

図6:ナノファイバーの応用分野


1)ヘルスケア

ヘルスケアの分野では、再生医療工学、創傷材料、および、ドラッグデリバリーが、ポテンシャルの高いナノファイバーの用途であります。この中で、最も市場規模が大きいと考えられるのは再生医療工学です。再生医療工学では、生分解性ポリマーで作製されたスカフォールドと呼ばれる孔材料上で、細胞を培養・増殖させます。細胞を多数含んだスカフォールドは、損傷した人体組織に移植され組織の再生が行われます。では、ここでナノファイバーで作成されたスカフォールドに、どのようなメリットがあるかを考えてみます。

図7は、ポリ乳酸ファイバーのサイズを、マイクロン、サブマイクロン、そして、ナノレベルへと落とし込んだ時の、平滑筋細胞の接着と成長の様子を示したものです。面白いことに、ナノレベルのポリ乳酸ファイバーのメッシュ上には、より多くの細胞が接着しており、組織培養プレートのケースと遜色ありませんでした。ヒトの組織構造はナノサイズの表面粗さを持っていることが知られています。このため、ナノファイバーのスカフォールドは、最も、人体組織を模倣していると考えてもよいかもしれません。エレクトロスピニング法で作製されたナノファイバー膜は、これまで、様々な生体細胞(骨細胞、肝細胞、平滑筋細胞、神経細胞、繊維芽細胞など)との親和性を示し、短時間での細胞増殖を容易にしております。

PLLAナノファイバー PLLAサブマイクロンファイバー
PLLAマイクロンファイバー 組織培養プレート

図7:ポリ乳酸(PLLA)ファイバー・スカフォールド上に培養した平滑筋細胞の接着の様子
(シンガポール国立大学・Nanobioegineering Laboratory の提供による)

図8は、生分解性ポリマーであるPLGAナノファイバーで神経再生官を作成した例です。ラットの損傷した神経を、作成した神経再生官で結合してから一ヶ月後に、再生した神経チャンネルを確認しております。このような例からも、ナノファイバー膜は、今後、再生医療の分野でスカフォールドとして用いられる可能性は十分に大きいと考えられます。
NEDOの報告によると、再生医療製品の市場規模は、世界市場で10兆円超、また、日本国内では1兆円と推計されております。再生医療の産業化で先行する米国ではFDA承認を受けた再生医療製品の総売上は約60億円を記録しています。このことから、ナノファイバーの再生医療工学における可能性は大きいと考えられます。

神経誘導管 再生した神経チャンネル

図8:(左)PLGAポリマーナノファイバーで作成した神経誘導管、および、(右)ラットを用いたインプラント実験で再生した神経チャンネル
(シンガポール国立大学・Nanobioegineering Laboratory の提供による)

2)バイオテクノロジー&環境工学

バイオテクノロジー、および、環境工学の分野で、ナノファイバーが注目を集めている用途は、アフィニティフィルターであります。アフィニティフィルターは、ファイバー表面に存在するリガントと呼ばれる分子により、ターゲットとなる分子を捕獲します。例えば、たんぱく質の精製、もしくは、点滴剤に存在する毒素を取り除く際は、これらと活発に反応するリガントを選択し、ファイバー表面に処理を行います。単位体積当たりの総表面積が大きいナノファイバー膜に処理を行うことで、短時間で高効率のフィルタリングが可能となります。

図9に示す例は、ビリルビン分子を補足するために血清アルブミンで化学修飾されたポリサルフォンナノファイバーであります。ビリルビンは、ヒト血液中の代謝排出物で、高ビリルビン血症で苦しむ患者に、高濃度で存在しております。また、乳幼児の場合、過剰なビリルビンは、脳の発達に影響を与える可能性があります。機能化したポリサルフォンナノファイバーは、0.12?g/mgのビリルビン補足機能を持つと報告されています。環境分野では、近年、急激な経済発展を遂げている中国やインドで水質汚染が深刻になっており、有害な有機廃物、重金属イオンを取り除くことが必要となっております。これらの用途でも、リガントで表面処理を施したナノファイバー膜は、従来のアフィニティーフィルターに取って代わる可能性があります。

図9

図9:ビリルビン分子を補足するために血清アルブミンで化学修飾されたポリサルフォンナノファイバー
(シンガポール国立大学・Nanobioegineering Laboratory の提供による)

3)防衛&セキュリティー

近年、テロリズムによる脅威の高まりから、防衛、および、セキュリティーをターゲットにした、ナノファイバーの用途が考えられております。例えば、ナノファイバーに有毒物と反応し解毒させるような機能を持たせることで、テロリストからのガス攻撃、もしくは、生物兵器攻撃に耐えうる防護服を作成することが考えられます。

図10は、毒ガスを無毒化するために表面機能化されたナノファイバーの例です。一般に、防毒マスクのフィルターには活性炭の粉末が用いられております。しかし、ポリマーナノファイバーの表面に様々なリガントを用い、活性炭に比べ11.5倍の分解性を持つ機能性ナノファイバーメッシュの開発が可能であると報告されています。

図10

図10:様々なリガントを付与したナノファイバー膜の毒素分解能
(シンガポール国立大学・Nanobioegineering Laboratory の提供による)

図11には、抗菌性銀ナノ粒子で複合化したポリアセテート・ナノファイバーの例を示しております。 TEM写真を見ますと、ナノファイバー全体に銀ナノ粒子が分散しています。このナノファイバーのメッシュを、バクテリアが播かれたティシューカルチャープレートに置きますと、メッシュの周辺のバクテリアが死滅し、プレート本来の無色透明の色が現れています(b,c)。逆に銀粒子を複合化しなかたポリアセテートナノファイバー(a)の周りは白いバクテリアが存在しているのがわかります。

抗菌性銀ナノ粒子で複合化したポリアセテート・ナノファイバーの例 セルロースアセテート・銀ナノ粒子ナノファイバーのTEM写真

図11:抗菌性を持つ銀ナノ粒子で複合化したセルロースアセテートナノファイバー
(シンガポール国立大学・Nanobioegineering Laboratory の提供による)

4)エネルギー

我々の日常生活には、原油、石炭、天然ガス、および、ウランなどのエネルギー源が欠かせません。しかし、これらの資源は近い将来枯渇する事が予測されています。今年(2006年)は、原油価格が1バレル70ドルを越したことが記憶に新しいですが、これは、急激な経済発展を遂げている中国、インドなどの超人口大国のエネルギー需要に、従来のエネルギー生産が追いついていない事が背景にあると考えられます。また、中東情勢も不透明なことから、今後も原油の高騰が予期されます。さらに、地球温暖効果を抑えるためにも、二酸化炭素の排出を減らす必要があり、既存のエネルギー源に代わり得る新奇なエネルギー源の開発が世界中の課題となっております。現在、ナノファイバーの用途が考えられているのが、ポリマーバッテリー、色素増感太陽電池、そして高分子膜燃料電池です。シンガポール国立大学のナノバイオエンジニアリング研究室では、エレクトロスピニング法によって作成された酸化チタンナノファイバーを、次世代太陽電池と呼ばれている色素増感太陽電池へ応用しようとしております。

図12に示すように、酸化チタンナノ粒子と酸化チタンナノファイバーからなる多層構造を色素増感太陽電池の電極に適用し、AM1.5Gの環境で電気特性を検討しています。その結果、酸化チタンナノファイバー層の厚みを増加させると、エネルギー変換効率の向上につながることが、示唆されました。シンガポール国立大学の研究チームは、ナノファイバー構造が従来の粒子構造の電極と比較し、電気化学的にどのような利点をもたらしているか、さらに検討しています。

DSSC assembled by Multi-Layer Structure of TiO2 Nanofibers and Particles Electrospun TiO2 Nanofibers
Tested Cell TiO2 Nanoparticles

図12:酸化チタンナノファイバーおよび酸化チタンナノ粒子で作成された色素増感太陽電池
(シンガポール国立大学・Nanobioegineering Laboratory の提供による)

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