ナノファイバーとは
NANOFIBER GUIDE
ナノファイバーとは、
直径1μm未満の、目に見えないほど細い繊維。
髪の毛のおよそ数百分の1から1,000分の1という細さで、表面積がとても大きいことから、フィルター、医療、電池、化粧品など幅広い分野で研究・実用化が進んでいます。このページでは、電界紡糸(エレクトロスピニング)装置メーカーとして15年以上ナノファイバーに携わってきたメックが、特徴・作り方・用途・材料を写真とともに解説します。
太さを比べると(棒の長さは実際の比率)
※ナノファイバーは実際の比率では線として描けないほど細いため、光る点で表しています。
ナノファイバーとは
ナノファイバーは、一般に直径が1μm(1,000nm)未満で、長さが直径の100倍以上ある繊維状の物質を指します。「ナノ」は10億分の1を表す単位で、1nm(ナノメートル)は1mmの100万分の1です。
たとえば直径100nmのナノファイバーは、髪の毛の数百分の1から1,000分の1ほどの細さです。肉眼では1本1本を見ることはできず、電子顕微鏡で観察します。



「セルロースナノファイバー(CNF)」との違い
ニュースなどでよく見かける「セルロースナノファイバー(CNF)」は、木材などの植物繊維を細かくほぐして作るナノファイバーの一種です。一方、このページで主に紹介する電界紡糸法のナノファイバーは、ポリマーなどの溶液から繊維を「紡いで」作ります。どちらも直径がナノサイズの繊維ですが、原料と作り方が異なります。
ナノファイバーの特徴
繊維がナノサイズまで細くなると、ふつうの繊維にはない性質があらわれます。
表面積がとても大きい
同じ重さなら、繊維が細いほど表面積は大きくなります。ナノファイバー膜の体積あたりの表面積は、従来のマイクロサイズの繊維の膜をはるかに上回り、吸着や反応の効率が高まります。
すき間が細かく、通気性がある
ナノファイバーを重ねた膜は、繊維どうしのすき間がとても細かくなります。空気や水分は通しながら微粒子をしっかり捕まえるので、高い集じん率と低い圧力損失(空気の通りにくさ)を両立できます。
細胞がくっつきやすい
ナノファイバーの網目は、体の中で細胞を支えている組織とよく似た構造です。細胞が接着・増殖しやすいため、再生医療の「足場材料(スキャフォールド)」として研究されています。
形や性質をつくり分けられる
条件を変えることで、なめらかな繊維、ビーズ状、表面に細かい穴がある多孔質、一方向にそろった繊維などをつくり分けられます。薬や粒子を繊維の中に閉じ込めることもできます。




ナノファイバーの作り方
ナノファイバーの代表的な作り方は次の4つです。なかでも電界紡糸法は、多様な材料をナノファイバーにでき、繊維の形のコントロールも比較的かんたんなことから、研究から製品化まで最も広く使われています。
電界紡糸法(エレクトロスピニング)
- しくみ
- 溶液に高い電圧をかけ、電気の力で細い糸状に噴き出させる
- 特徴
- 使える材料が多く、太さや形をコントロールしやすい。研究用から生産用まで装置がある
メルトブロー法
- しくみ
- 溶かした樹脂を高速の空気で吹き飛ばして細くする
- 特徴
- 生産性が高い。一般的には電界紡糸法より繊維が太くなりやすい
複合紡糸法(海島法)
- しくみ
- 2種類の樹脂を一緒に紡いだあと、片方を溶かして除く
- 特徴
- そろった細い繊維を大量に作れる。使える材料の組み合わせに制約がある
解繊法
- しくみ
- 植物繊維などを機械や薬品で細かくほぐす
- 特徴
- セルロースナノファイバー(CNF)の主な作り方
電界紡糸法(エレクトロスピニング)のしくみ

- 溶液を送り出すポリマーなどを溶かした溶液を、タンクから紡糸口(ノズル)へ一定の速さで送ります。
- 高い電圧をかける紡糸口に10〜30kVの電圧をかけ、溶液に電気をためます。
- 細く噴き出す電気の引力が溶液の表面張力を上回ると、溶液がコレクター(受け止める部分)に向かって細く噴き出します。
- ナノファイバーになる飛んでいく間に溶媒が蒸発し、繊維はナノサイズまで細くなってコレクターに積み重なります。
仕上がりを決める3つの条件
溶液の性質
- ポリマー濃度
- 粘度
- 導電性
- 弾性
- 表面張力
紡糸の条件
- 電圧
- 溶液を送る量
- 紡糸距離
- 巻き取り速度
まわりの環境
- 温度
- 湿度
- 気圧
繊維の太さは主にポリマーの濃度で、繊維の向きは主にコレクターの設計で決まります。ただし、目的の繊維を作るための条件の組み合わせを見つけることが、電界紡糸で最も難しく、時間のかかる部分です。
コレクターを変えると、できる形が変わる
電界紡糸では、繊維を受け止める「コレクター」の種類によって、できあがるナノファイバーの形が大きく変わります。メックの装置で使っている代表的なコレクターは次のとおりです。
平板コレクター
平らな板の上に繊維がランダムに積み重なり、不織布(シート)になります。いちばん基本的な形です。
ドラムコレクター
高速で回転する円筒に巻き取ることで、繊維が一方向にそろった「配向膜」ができます。メックでは直径200mm・幅200mmのドラムを最大3,000rpmで回転させた実績があります。
ディスクコレクター
回転する円盤のふちに繊維を集め、細い帯状の配向ファイバーを作ります。
マンドレルコレクター
直径3〜6mm程度の細い棒を回転させながら紡糸し、人工血管などへの応用を目指したチューブ状のナノファイバーを作ります。
ロールトゥロール
基材を巻き取りながら連続で紡糸し、長いシートを作ります。生産に近い作り方です。
溶媒への紡糸
ノズルの下に置いた溶媒の中に紡糸すると、綿のようなナノファイバー(ナノファイバーコットン)ができます。
ナノファイバーの主な用途
環境
エアフィルター、マスク、水処理用のろ過膜、油や汚染物質の吸着材、センサー
医療・ヘルスケア
再生医療の足場材料、創傷被覆材(傷を覆う材料)、人工血管、薬を少しずつ届ける仕組み(DDS)、癒着防止材
エネルギー
電池のセパレータ(正極と負極を隔てる膜)、電極材料
化粧品・食品
スキンケア製品、機能性食品材料
衣料・生活
防寒・透湿防水などの機能性衣料
医療分野で注目される理由
「細胞がくっつきやすい」「体内で分解・吸収される材料で作れる」「すき間に薬を含ませられる」「強さや弾力を調整できる」という性質が活かされ、国内外で研究開発が進んでいます。
最近の研究事例
ナノファイバーは世界中の大学や企業で研究されています。2024年に発表された論文から、分野ごとに代表的な例を紹介します。
傷を守り、菌を抑える被覆材
体になじみやすく分解される材料のナノファイバーに銀のナノ粒子を埋め込み、抗菌性のある創傷被覆材を作製。ラットを使った実験で、高い傷の閉鎖効果が確認されています。
Ashwini Wali et al.(2024)
歯ぐきの骨の再生を助ける膜
医療用途でよく使われる生分解性の樹脂PCLに、植物由来の成分ケルセチンを組み込んだナノファイバー膜を作製。ラットの実験で歯周の骨の再生に良い結果が出ており、歯周病治療への応用が期待されています。
Yue Hu et al.(2024)
工場排水から染料を取り除く膜
PCLにキトサンを配合したナノファイバー膜で、幅広い産業で使われる染料(メチレンブルー)を水の中から効率よく取り除く研究が行われています。
Hind M. Saleh et al.(2024)
曲げても使える電池の電極
ナノ粒子を均一に埋め込んだナノファイバーで、導電助剤や接着剤のいらない電極を作製。電気を通しやすく、曲げても性能を保つため、フレキシブルな電池への応用が期待されています。
Ping Feng et al.(2024)
ナノファイバーにできる材料
電界紡糸法では、溶媒に溶けて適度な粘り気(粘弾性)がある材料なら、多くのものをナノファイバーにできます。メックでこれまでに紡糸した代表的な材料は次のとおりです。
材料の種類だけでなく、分子量やメーカーごとの品質の違い、合う溶媒によっても、紡糸できるかどうかは変わります。
材料ごとの繊維径つき紡糸実績を見るナノファイバーの研究動向
エレクトロスピニング法に関する文献数
(J-GLOBAL、2024年3月時点)
2006年ごろから文献数が急増し、近年は年間4,000〜5,000本以上が発表される、とても研究が盛んな分野です。
すでに高性能フィルターやマスクとして実用化されているほか、最近はナノファイバーと粒子を組み合わせた材料の研究が進み、電極、分離膜、センサー、創傷被覆材、機能性衣料、塗料など、さらに多くの分野で応用が検討されています。
ナノファイバーの研究動向を詳しく見るメックのナノファイバー実績
株式会社メック(福岡県小郡市)は、電界紡糸装置の開発・製造メーカーです。ナノファイバー事業部の創設以来15年以上にわたり、卓上のラボ用装置から、量産を見据えたパイロット生産用装置までの装置づくりと、紡糸条件の開発に取り組んできました。




大学・研究機関の声
私どもの研究室では、MECCさんのESM-101とNANON-04を使用して癌治療や血液浄化用のメッシュの開発を行っております。
国立研究開発法人 物質・材料研究機構(NIMS)荏原 充宏 教授
NANONはナノファイバーを研究対象とする私たちの研究室では無くてはならない設備です。紡糸条件の設定は直感的で、効率的に作業を進めることができます。
福井大学 工学系部門 繊維先端工学講座藤田 聡 教授
電界紡糸装置の選び方
電界紡糸装置は、「何を、どれくらいの量、どんな形で作りたいか」で選びます。メックでは目的に合わせて、大きく3つのタイプの装置をご用意しています。
ラボ用装置
まずナノファイバーを作ってみたい、材料や条件を探りたいという研究室向け。卓上に置けるサイズで、配向膜や芯鞘構造の繊維にも対応します。
医療向け装置
清浄な環境での紡糸が求められる医療・ヘルスケア研究向け。HEPAフィルター、抗菌性の高いステンレス部材、発塵を抑えた設計で、シートやチューブ状のナノファイバーを作れます。
どの装置が合うか迷ったときは、作りたいナノファイバーの材料や用途をお聞きしたうえで、最適な装置をご提案します。
電界紡糸装置の性能比較表を見るナノファイバーづくりの始め方
「ナノファイバーを使ってみたいけれど、何から始めればいいかわからない」という方も多くいらっしゃいます。メックでは、装置を買う前の段階から、次の流れでお手伝いしています。
- 無料で相談する「手持ちの材料でナノファイバーが作れるか」「何が必要か」といった初歩的な質問から、紡糸条件の専門的な相談まで、15年以上条件づくりに携わってきたスタッフがお答えします。
- 試しに作ってみるお客様の材料でサンプルを作製してお届けします。来社して一緒に紡糸したり、来社せずにオンラインで紡糸の様子を見ながら相談したりすることもできます。
- 装置を選ぶ試作の結果をもとに、研究用か生産用か、必要なコレクターや部品は何かを一緒に決めます。
- 導入後もサポート出荷後1年間は当社工場で無償修理を行います。保守部品の購入や、紡糸条件の追加相談にも対応します。
ナノファイバー用語集
ナノファイバーや電界紡糸について調べると、よく出てくる言葉をまとめました。
- 電界紡糸(エレクトロスピニング)
- 溶液に高い電圧をかけ、電気の力で細い繊維を引き出す作り方。ナノファイバーの代表的な製法です。
- スピナレット
- 溶液を噴き出す紡糸口(ノズル)のこと。噴出口が1つのものから、生産性を高めるために複数あるもの(マルチジェットスピナレット)まであります。
- コレクター
- 噴き出した繊維を受け止める部分。平板、ドラム、ディスクなど、形によってできるナノファイバーの形が変わります。
- テイラーコーン
- 電圧をかけたときに、ノズルの先の溶液が円すい形にとがる現象。この先端から細い繊維が噴き出します。
- 紡糸距離
- ノズルの先からコレクターまでの距離。距離が長いと、溶媒が蒸発する時間が長くなります。
- 不織布
- 繊維を織らずに重ねてシート状にしたもの。ナノファイバーは多くの場合、不織布の形で使われます。
- 配向膜
- 繊維の向きが一方向にそろった膜。回転するドラムやディスクのコレクターで作ります。
- 芯鞘構造(コアシェル)
- 1本の繊維の中心(芯)と外側(鞘)が別の材料でできた構造。中に薬などを閉じ込める用途で研究されています。
- 生分解性ポリマー
- 時間がたつと体内や自然の中で分解される樹脂。PLLAやPCLなどがあり、医療用途でよく使われます。
ナノファイバーに関するよくある質問
ナノファイバーは自分で作れますか?
電界紡糸法では数万ボルトの高電圧を使うため、安全対策が整った専用の装置で作ることをおすすめします。メックの装置には、高電圧インターロック、運転中のドアロック、強化ガラス、非常停止ボタンなどの安全機能を搭載しています。まず試してみたい方には、サンプル作製やオンライン紡糸テストもご用意しています。
天然素材でもナノファイバーは作れますか?
はい。コラーゲン、ゼラチン、キトサン、ヒアルロン酸などの紡糸実績があります。ただし、分子量や分子構造、合う溶媒などによって、紡糸できるかどうかは変わります。
ナノファイバーの太さは調整できますか?
はい。主に溶液のポリマー濃度で調整し、電圧や紡糸距離、温度・湿度なども影響します。材料によって細くできる限界は異なります。
どんな溶液がナノファイバーに向いていますか?
材料が溶媒に溶けて、適度な粘り気(粘弾性)があることが必要です。メックでは、DMF、DCM、純水、アセトン、エタノール、クロロホルム、メタノールなどの溶媒を使っています。
少量だけナノファイバーを試作できますか?
はい。お客様の材料や条件をうかがい、必要な枚数のサンプルを作製してお届けします。来社いただいて一緒に紡糸することも可能です。
湿度や温度はナノファイバーの仕上がりに影響しますか?
はい、大きく影響します。湿度が高いと繊維がうまく乾かずに形が崩れたり、表面に穴があいたりすることがあります。安定して紡糸するには、市販の除湿器などで紡糸する部屋やチャンバーの環境を整えることをおすすめします。メックでは除湿器を取り付けるためのアダプターもご用意しています。
装置を買う前に、実際に紡糸を見ることはできますか?
はい。福岡県小郡市の本社にお越しいただければ、実際の装置で紡糸をお試しいただけます。来社が難しい場合は、オンラインで紡糸の様子を見ながらご相談いただけるオンライン紡糸テストもあります。参加者が10名以上の場合は、出張デモにも対応しています。
ナノファイバーの試作・装置選びは、メックにご相談ください
「手持ちの材料でナノファイバーが作れるか知りたい」「どの装置を選べばいいかわからない」といったご相談に、紡糸条件づくりの専門スタッフがお答えします。