結膜感染症治療のためのエレクトロスピニングナノファイバーを利用したDDS開発についての論文を簡単にご紹介させていただきます。
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ポリカプロラクトンおよび酢酸セルロースを基剤とする持続性眼内投与用マクロライド担持ナノファイバーインサート: ウサギ眼における薬物動態試験
バイオアベイラビリティとDDS
アジスロマイシン(AZM)は広域抗生物質であり抗炎症効果を持ち、細菌性結膜炎の原因に作用することから、目の感染症治療に有効で点眼薬として使用されています。
しかし、点眼薬ではバイオアベイラビリティが限られ、頻繁に投与する必要があります。そのため近年では、角膜透過を増加させ薬物滞留延長や薬物送達を強化することのできるナノベースの新規薬剤送達システムが注目されています。
バイオアベイラビリティ:与された薬物(製剤)が、どれだけ全身循環血中に到達し作用するかの指標。
ナノファイバーを利用したDDSによる点眼薬の効果と展望
そのなかでもナノファイバーを利用する方法は、ナノファイバーが高い表面積や多孔質構造、高い薬物装填容量といった特性をもっているため、直接結膜嚢に挿入し結膜表面での薬物滞留時間を延長することができ、薬剤投与回数を減らすことが可能なため、眼持続性薬物送達に最も適した方法の1つになります。実際に多数のポリマーがエレクトロスピニング法によりナノファイバーに加工され利用されています。
筆者らは、無毒で生分解性、生体適合性を持つ酢酸セルロース(CA)と、薬物送達目的でFDA認可を受けている疎水性ポリマーであるポリカプロラクトン(PCL)を利用してAZMを担持したナノファイバーを作製し、有効性を評価しました。彼らは以前親水性ポリマーによりAZM担持ナノファイバーを作製していたため、過去の結果と比較して薬物動態学的特性の改善も評価しています。
今回作製されたナノファイバーは、嚢胞に固定するのに適し、角膜や結膜に刺激を起こさないような厚み0.11mm未満で作製されました。物理的特性評価の結果から十分な柔軟性を有していて適切な強度であり、乾燥・多湿条件下でも安定していて様々な工程や取り扱いにも適していることが分かりました。
in vitroでの薬物放出実験では、CAは緩やかな薬物放出が見られPCLでは初期段階で高濃度薬物放出が見られました。また、ナノファイバーへの薬物含有量が多いほど細胞増殖阻害領域が大きくなっていました。CA、PCLともに生体適合性ポリマーであるため、細胞毒性は見られませんでした。
in vivo実験ではウサギの結膜嚢にAZM添加ナノファイバーを挿入したところ、CA、PCLともに刺激性がなく、点眼薬より長い薬物滞留時間と約20倍の最大薬物放出濃度を示し、CAでは特に長い平均滞留時間が見られ、PCLでは特に高い薬物放出濃度が見られました。
この実験でAZMは、涙液中で6日以上検出可能であり、製剤からの薬物放出が制御されていることを示しています。過去の研究結果と比較すると、どちらのナノファイバーも薬物動態特性が改善されていましたが、これは疎水性ナノファイバーマトリックス内に薬剤をカプセル化できたことによるものと考えられます。
すべての結果から、今回作製されたナノファイバーが表在性細菌感染症の治療のために薬剤の持続的な放出や、投薬頻度減少による患者のコンプライアンス向上させることが可能であり、AZMの眼投与による治療効果の向上に貢献できることを示唆しています。
目薬って何度も点すのは少し面倒だし、忘れちゃうこともありますよね……。この方法でなら何度も目薬を点さなくて大丈夫だしとっても便利ですね!
PCLは角膜再生に利用されていますし安心性も高いです♪
参考文献:〈Macrolide-loaded nanofibrous inserts with polycaprolactone and cellulose acetate base for sustained ocular delivery: Pharmacokinetic study in Rabbit’s eye.〉
Shiva Taghe(A,B) , Shahla Mirzaeei(B,A) , Negin Pakdaman(C) , Aliakbar Kazemi(C) , Ali Nokhodchi(D).
A:Pharmaceutical Sciences Research Center, Health Institute, Kermanshah University of Medical Sciences, Kermanshah, Iran
B:Nano Drug Delivery Research Center, Health Technology Institute, Kermanshah University of Medical Sciences, Kermanshah, Iran
C:Student Research Committee, Kermanshah University of Medical Sciences, Kermanshah, Iran
D:Pharmaceutics Research Laboratory, School of Life Sciences, University of Sussex, Brighton, UK